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軽減税率は「利権の温床」を生む「誰も得しない」税制です

前回「軽減税率で税金が安くなる! と喜んでいるあなたへ ・・・勘違いしてるだけです」で、軽減税率(複数税率)があなたにとって何の得にもならない無意味な制度であることを説明しましたが、今回はその弊害について説明します。

軽減税率(複数税率)がもたらす弊害は沢山ありますが、一番わかりやすいのが「品目の線引きが難しい」ことと「巨大な利権の温床の発生」です。この2つは密接に関係しています。

軽減税率導入前の現時点(2015年9月)で「利権の温床の発生」は既にその兆しが見えています。あなたも新聞各社が「新聞を軽減税率適用の対象にしろ!」と主張しているのを目にしたことがあるのではないでしょうか。

新聞各社が加盟している「日本新聞協会」はその主張の理由をウェブサイト上で以下のように説明しています。

ニュースや知識を得るための負担を減らすためだ。新聞界は購読料金に対して軽減税率を求めている。読者の負担を軽くすることは、活字文化の維持、普及にとって不可欠だと考えている。


新聞協会の主張は一見もっともらしく聞こえるもしれません。でも、考えてみればすぐに分かるように、私たちが「ニュースや知識」を得ているのは新聞だけではありません。

例えば、週刊誌や月刊誌にも真面目なニュースや知識を提供しているものが沢山ありますし、ネットメディアも今では不可欠なニュースの取得源です。

週刊誌や月刊誌、有料のネットメディアが軽減税率の対象外で、新聞のみが対象というのはフェアなのでしょうか?

一方、同じ新聞でも「夕刊紙(タブロイド紙)」はどうなんでしょう。「夕刊フジ」や「日刊ゲンダイ」等です。もちろん夕刊紙はニュースも掲載していますが、どちらかというとエロ記事や競馬の予想のほうが目立っています。

さらには「東京スポーツ」とか「大阪スポーツ」なんてのもあります。「東スポ」はある意味大変価値あるメディアだと私は思っていますが、「ニュースや知識を得るための負担を減らし、活字文化の維持普及のために」東スポを軽減税率の対象にするのは妥当なんでしょうか?

もしも「東スポ」や「夕刊フジ」はふさわしくないとして軽減税率の対象から外すとして、一体誰がどんな基準で決めるのでしょうか? 財務省の官僚でしょうか? 国税庁ですか? あるいは「軽減税率判定センター」なんて作るんでしょうか? どういう決め方をするにせよ、誰かが何らかの判断を下すのであれば、そこには「利権」が発生します。

自社の製品、サービスが対象品目から外れれば、相対的に不利な立場に立たされる会社の経営者は、当然のことながら対象品目に入れてもらえるようあらゆる努力を試みます。(そうした努力は経営者として当然です。怠れば株主等から非難されて然るべきです。)こうして各企業から政界、官界への働きかけが始まります。

では、なるべく線引きに恣意性が生じないように、新聞も週刊誌も月刊誌もネットメディアも、とにかくニュースを提供しているものは全て対象にすることにしたとします(ニュースをどうやって定義するのかという難しい問題は横に置いておくとして)。では、最近よくあるバッグ等のおまけと一緒販売されている女性誌はどうなるんでしょう?

女性誌にも当然ニュースが掲載されています。こうした商品が軽減税率の対象になるのであれば、今度はバッグやその他いろんな商品を雑誌と一緒に売ることを考える業者も出てくるかもしれません。その時には、いったい誰がどういう基準で対象、非対象の判定を下すのでしょう。


・・・

「利権の温床」という観点では、ニュースメディアより食品を例に出したほうが分かりやすいかもしれません。

今現在(2015年9月)「精米」だけを軽減税率の対象にしようという案があります。当否はともかく、生きていくための究極の必需品に対象を絞ったほうが「低所得者対策」として相応しいという考えによるものです。


この「精米だけ」を対象とするのはフェアなのでしょうか? パンも米と同様に主食ですし、低価格なパンも沢山あります。「精米が対象ならパンも対象にすべきだ」という主張を論理的に否定するのは難しいです。パン製造会社の人たちは、当然パンも対象にするよう働きかけるはずです。以下、次のように事は展開していきます。

政府「では「精米」と「パン」を対象にすることにします!」

うどん製造業者「ちょっと待って下さい。お米とパン同様うどんも主食ですよ。うどんのほうが実際パンより安いケース多いですよ。」

政府「わかりました。では「精米」と「パン」と「うどん」を対象にします!」

ソバ製造業者「ちょっと待ってよ。うどんが入るんならソバもでしょ」

政府「あ、そうですね。わかりました。じゃあ「精米」「パン」「うどん」「そば」で・・・。」 

日清食品「ちょっと待ってくださいよ。カップ焼きそばとかカップヌードルのほうが全然安くて低所得者むけですよ。それ、おかしいでしょ。」

政府「じゃあ、焼きそばとラーメンも」

冷凍ピザ会社「ちょっと待ってくださいよ。ラーメンって、インスタントラーメンでも高級路線のもありますよ。高級インスタントラーメン入るんだったら、当然ピザも入れるべきです。」

政府「・・・・。じゃあ、ピザも」

肉まんの井村屋「ちょっと待ってくださいよ。ピザが入るなら、肉まんとかあんまんも要れてよ。」

政府「あ、・・・・。じゃあ・・・」 

こうして、延々と自分の商品、サービスを軽減対象にしようとする会社が現れ続けます。こうなると、軽減対象の決定に影響力を行使しうる政治家や官僚に対する陳情や口利きが始まるのは火を見るより明らかです。(というか既にそうなり始めている。)また、政治家や官僚はこの土壌を権力の源として利用し始めるのも、これまた火を見るより明らかです。


只でさえ、天下りを実質的な賄賂として官僚組織が業界に各種便宜を図っているこの国で、このような「温床」新たに作り出すことの弊害の大きさは、計り知れません。絶対にこんなことは止めるべきです。

どのように線を引いたところで、それが適切なのか?判定はどうするのか?という問題は絶対に無くなりません。こうしてひとたび複数税率(軽減税率)が導入されると、税率の線引きを巡って、泥のような混迷の道に社会全体が迷い込むことになります。

実のところ線引きや判定を巡る混乱や争いは、軽減税率を導入している国では現実に起こっていることなのです。


軽減税率の話を持ち出すと、「ヨーロッパでは!」「ドイツでは!」とすぐに言い出す人がいると、前回書きましたが、導入各国でも当然ながらこのことは大いに問題になっています。税務申告の際も、税務署と納税事業者の間で争いが頻発し、訴訟になることも稀ではありません。ヨーロッパで導入されているからといって、この対象品目の線引きの難しさが引き起こす弊害は、何ら解決されているわけではありません。
(「ヨーロッパでは・・・!」とすぐに言い出だす人を見ると、「ヨーロッパでやっていたら何でも良い制度だとでも思っているバカなのか!?」と正直聞きたくなってしまいます。)

実際に複雑な税率を設定している国ほど、新しい商品が出てくるたびに適用税率を巡って揉め事になるケースが多くなります。急速に世の中が進歩して、過去には想定されなかった商品は今後も出てくるわけで、その度にこのような不毛な争いが繰り返されます。

「線引きの難しさ」「利権の温床の発生」の問題が引き起こす争いによって、社会のエネルギーが無駄に空費されて、生産性を大きく低下させることになります。生産性が低下するということは、社会の生み出す富が減るということであり、富が減るということは国の税収減につながります。税収減になるということは、再度それは私たちに増税圧力となって返ってくるということです。

一体全体、軽減税率(複数税率)という制度は誰の得になるというのでしょう?誰の得にもならないのは明らかです。(利権を得る政治家と官僚以外は)

前回の「軽減税率で税金が安くなる! と喜んでいるあなたへ ・・・勘違いしてるだけです」で既に書きましたが、そもそも軽減税率は「低所得者対策」として効果がほとんどありません。

そもそも目的を達成しない(低所得者が救われない)制度であるにもかかわらず、このような誰も得しない(利権を得る官僚や政治家以外)デメリットを生みだす軽減税率を導入するなんて、全くもって正気の沙汰でありません。

これも前回書いた話ですが、税負担を軽くすることをあなたが望むのであれば「複数税率(軽減税率)」にするのではなくて、単一税率のまま単に税率を下げれば(増税幅を少なくすれば)良いだけの話です。

一度、複数税率を導入してしまえば撤回することは極めて難しく、この国において巨大な「利権の温床」が存在し続けることになります。本当にこんな制度導入して良いのでしょうか???

軽減税率を支持している人は、いますぐこの瞬間に目を覚ますべきです。


(※そもそも「軽減税率で税金が得すると思っているあなたへ・・・勘違いです」で見たように、読者の負担を軽くしたいのであれば、単一税率を保ったまま新聞代を給付すればよいのですが(そうすれば複数税率化のデメリットはなし)、その話は横に置いて書きました。)